大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)278号 判決

被告人 渡辺勲

〔抄 録〕

当裁判所は原審の訴訟手続について、職権を以て調査するに、原判決は被告人渡辺勲外五名に対する各別個の犯罪事実を認定しているに拘らず、これを認定した証拠としては二十数個の証拠の標目を単に羅列しているだけで、どの証拠でどの事実を認定したか明瞭でない。そこで原判示事実と挙示の証拠の標目とを対照して検討すると、被告人渡辺勲に対する司法巡査及び検察官の各供述調書は同被告人に対する原判示第二の事実を認定した自供調書(自白)として挙示した趣旨であることが窺われ、その補強証拠については、原判決が挙示している証拠の中に後藤政一に対する司法巡査の各供述調書及び同人に対する検察官の各供述調書という標目があるので、これを被告人渡辺勲に対する原判示第二の事実認定の補強証拠とする趣旨で挙示したものと推察せられるが、記録によると後藤政一に対する司法巡査の供述調書は七通あり、検察官の供述調書は四通あつて、しかもそのうち司法巡査の供述調書一通と検察官の供述調書一通は本件と併合前後藤政一に対する窃盗同未遂被告事件の証拠として取り調べたもの、また司法巡査の供述調書二通及び検察官の供述調書一通は後藤政一に対する右被告事件を本件より分離した後に同人に対する右事件の証拠として取り調べたものである。そして本件と後藤政一に対する右被告事件と併合審理中に取り調べた後藤政一に対する司法巡査の供述調書四通及び検察官の供述調書二通についても、後藤政一の自供調書(刑訴法三二二条によるもの)として取り調べたものか又は後藤政一の自供調書であると同時に被告人渡辺勲の証拠(刑訴法三二一条又は同法三二六条によるもの)としても取り調べたものか明らかでなく、仮りにその後者であつたとして原審第一回公判調書(昭和三十年十月二十六日附)添付の証拠関係目録の記載によると、検察官の右供述調書の証拠調請求に対し、後藤政一の弁護人がこれを証拠とすることに同意した旨の記載はあるが、被告人渡辺勲又はその弁護人がこれを証拠とすることに同意した形跡はなく、また右供述調書を被告人渡辺勲のために刑事訴訟法第三百二十一条による証拠として取り調べるにつき同条所定の要件を具備しているとは認められず、原審が簡易公判手続によつて本件を審理したものでもない。然らば原判決は適法な証拠能力なき証拠を事実認定の証拠とした違法があり、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十九条により原判決中被告人に関する部分を破棄し、同法第四百条本文により本件を吉原簡易裁判所に差し戻すこととする。

(大塚 渡辺辰 江碕)

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